※この話はAIによる創作怪談で、全てフィクションです。
20代のクレーン運転士・大輝は、職人気質の父親に憧れてこの道に入った。
繊細な操作と、空中で荷を操る感覚が性に合っていた。
その日も、大型商業ビルの建設現場で、朝から忙しくタワークレーンを動かしていた。
クレーン室は地上から50メートル。狭く孤立した空間にこもり、無線の指示だけを頼りに荷を吊るす。
誰とも顔を合わせない。けれど大輝は、この“空の仕事”を気に入っていた。
だが、あの現場だけは、違った。
奇妙なことが起きたのは、ビルの上層部が組み上がり始めた頃だった。
朝礼で名前を呼ばれた作業員が、一人、返事をしなかった。
無断欠勤かと思われたが、その日の午後、荷下ろしをしていた大輝は、地上に目をやり――凍りついた。
吊り荷のすぐ下、ヘルメットをかぶった作業員がじっと立っていた。合図もせず、ただ真っ直ぐにこちらを見上げていた。
「危ないぞ!」
思わず無線で叫んだ。だが、応答はない。
その瞬間、風が吹き抜け、荷が少し揺れた。だが、作業員は微動だにしない。
そして――その姿は、次の瞬間、すっと消えた。
幻覚か? 疲れているのか?
だがその夜、大輝は同僚から聞かされた。
「あの場所さ、昔、落下事故でひとり亡くなってるんだよ。クレーンの下で作業してて、吊り荷の影から抜け出せなかったらしい。首の骨、即死だったってさ」
まさか、そんな……
だが、次の日も、大輝は見てしまった。
吊り荷が降りるたび、荷の影に“何か”が立っている。形は人間のようだが、ぼやけていて、顔は見えない。ただ一点、必ずクレーン室のほうを見上げていた。
それから数日、荷が妙に揺れることが増えた。風がないのに、突然バランスを崩す。
センサーには異常なし。だが、大輝は感じていた。
吊り荷の下に“何か”がいると、クレーンが嫌がっている――そんな気がした。
決定打となったのは、ある雨の日だった。
視界が悪く、作業も終盤だった。最後の荷を吊ったとき、明らかにおかしな感触が手に伝わった。
荷が引っ張られている。誰かが、下からしがみついているような重さ。
「外せ、そこにいるな……」
無線から、聞いたことのない声が混じった。
誰かのチャンネルが混線したのか? いや、違う。あれは誰かに向けた“警告”だった。
慌てて荷を元の位置に戻すと、建物の影から、あの“作業員”がまた姿を見せた。
びしょ濡れのヘルメット、黒い作業着――その顔は、穴が開いたように真っ黒で、目も口も見えなかった。
その日を最後に、大輝はその現場を離れた。
職人の誇りはある。でも、空の上にいる時間が、あまりに長いと――“地上のものじゃない何か”が、吊り荷にぶら下がってくる気がしてならないのだ。
今でも、ときおり夢に見る。
雨の音、荷の揺れ、そして――真っ暗な目で、見上げてくる“何か”を。