※この話はAIによる創作怪談で、全てフィクションです。
20代の鳶職・亮は、高所作業を得意としていた。
命綱ひとつで鉄骨を渡るのが、何よりも気持ちよかった。
この日も、ビル新築のための足場組立作業に参加していた。最上階まで立ち上げるため、高さはおよそ50メートル。
それは、地上から見上げればクレーンの先に見えるほどの高さだった。だが亮は、恐れず登った。
問題はなかった。少なくとも、最初のうちは。
作業も終盤、足場の最上段での組立中、ふとした違和感を覚えた。
「……誰か、いる?」
視界の端に、赤いヘルメットが見えた。安全帯もつけず、片手で支柱にぶら下がるように立っている。見覚えのない姿だった。
「おーい、大丈夫か?」
呼びかけても、返事はない。風に紛れて何も聞こえない。ただ、じっとこっちを見ているような気配だけが伝わってくる。
仲間に確認しようと無線を取ったが、ノイズばかりでつながらない。辺りの空気がぐっと重くなる。風は止み、音も消えた。
そのときだった。
「こっち、おいで」
低く、男とも女ともつかない声が耳元でささやいた。思わず振り返ると、そこには誰もいない。だが背中に、誰かが触れたような感触だけが、ぬるりと残った。
亮は思わず足を滑らせかけ、必死で支柱をつかんだ。命綱がなければ、確実に落ちていた。
その瞬間、赤いヘルメットの男がふっと視界から消えた。まるで、最初から存在していなかったかのように。
地上に戻ると、年配の職人がポツリと口を開いた。
「見たんだな。赤いヘルメットのやつ」
驚いて顔を向けると、その男は遠くを見ながら続けた。
「10年前、この現場とそっくりの高さの足場から、鳶がひとり落ちたんだ。真夏の熱で鉄が焼けてな、手が滑ったって話だが……落ちた理由は、それだけじゃないらしい。落ちたやつ、赤いヘルメットしてたそうだ」
以来、高所で赤いヘルメットを見た者は、何かを“誘われる”らしい。命綱を外したくなったり、手を離したくなったり、わけもなく体が前に出たり。
「見たら、返事すんな。目も合わせるな。あいつは、一緒に落ちてくれるやつを、ずっと探してる」
それ以来、亮は足場のてっぺんに立つと、必ずヘルメットの色を確認するようになった。赤いのがいたら、決して近づかない。
あの日見た“それ”が人だったのか、何かだったのか――今でもわからない。
ただひとつ言えるのは、50メートルの高さには、人間だけじゃない“何か”が、ときどき立っているということだ。