※この話はAIによる創作怪談で、全てフィクションです。
30代の鳶職・和也は、腕の立つ職人だった。高所をものともしない大胆さと、的確な判断力で仲間からも一目置かれていた。
だが、ある現場での出来事を境に、高い場所に立つたび、ふと背後を振り返る癖がついた。
その日、建て方初日の現場は、郊外に建つ新しい物流倉庫。鉄骨が次々に組み上がるなか、和也は仲間と共に10メートルほどの高さで作業をしていた。空は晴れていたが、なぜか風が妙に生ぬるく、じっとりとしていた。
鉄骨の梁に足をかけ、いつも通りの作業を進めていると、ふと反対側の梁の先に、ヘルメットをかぶった男が立っているのが見えた。
白い作業着。顔まではよく見えない。仲間かと思い、「おーい、そっち大丈夫かー?」と声をかけたが、返事はない。しかも男は、命綱をつけていなかった。
「危ねぇな」と思いながら、注意しようとそちらに向かって進んでいった。
しかし、数歩進んだところで違和感に気づく。
――風が止まっている。
鉄骨の上では風の有無が命取りだ。なのに、さっきまで吹いていた風が、ぴたりと止まった。全体が静まり返るような、不自然な空気。
次の瞬間、男がすっと立ち去るように梁の影に消えた。
不審に思った和也は無線で下に確認した。「上に上がってるやつ、今そっちに誰かいるか?」
すると、返ってきたのは「いや、和也さん以外は今、全員下っすよ」という返答だった。
「……は?」
慌ててさっき男がいた場所にたどり着くが、誰もいない。足跡もない。
それどころか、梁の先はまだ組み上がっておらず、人が立てる状態ではなかった。
ゾッとした。だが、「疲れてんだろ」と自分に言い聞かせ、仕事に戻った。
ところが、その日の夜、休憩所で年配の作業員がふと言った。
「あの現場、前に事故あったって聞いたよ。鉄骨から落ちた若い鳶がいたらしい。助からなかったって」
胸がざわついた。そういえば、あの男――どこか、動きが機械的だった。人間らしい重さや慎重さがなかった。
次の日。朝礼前に現場を見上げた和也は、ぞっとした。まだ誰も上がっていないはずの梁の上に、ヘルメットをかぶった男が、また立っていた。
まっすぐ、こちらを見下ろしていた。目は、見えない。けれど、確かに感じた。
――こっちに来い、と。
今も和也は鳶の仕事を続けている。
だが、組立現場では絶対に、誰よりも先に鉄骨の上に上がらない。
先に上がっている“誰か”がいたら、それは人ではない。
そう知ってしまったからだ。