※この話はAIによる創作怪談で、全てフィクションです。
50代の作業員・村井は、ベテラン中のベテランだった。昼夜を問わず、全国の現場を渡り歩き、どんな作業もこなしてきた。だが、あの夜のことだけは、いまだに誰にも話せずにいる。
その現場は、市の外れで行われた下水管の深夜工事だった。日中は交通量が多いため、作業はすべて夜間。空気は冷たく、静かだったが、重機の音だけが地響きのように響いていた。
午前2時。休憩に入る直前、村井は一人で掘削機のそばに残っていた。土の中から古いコンクリ片が出てきたため、手で軽く掘り返していたのだ。
そのとき、不意に背後から声がした。
「お疲れさまです」
同僚の誰かかと思って振り返る。だが、誰もいない。照明塔の明かりが照らす先には、土と鉄パイプと重機の影だけ。気のせいか――そう思い、作業に戻ろうとしたとき、今度は耳元ではっきりと聞こえた。
「ここ、掘っちゃ……だめです」
ゾクリとした。声は女のものだった。若いような、けれど異様に乾いた声。あわてて後ろを見たが、やはり誰もいない。
おかしいと思い、足元の土をライトで照らす。すると、そこにあったのは――人の指のようなものだった。乾いて白く、土に埋もれ、指先だけが地表に出ている。
息を呑んだ瞬間、土の中からボコボコと泡が立ち、強烈な腐臭が立ち込めた。後ずさりしながらライトを向けたが、もう“それ”は見えなかった。指も、泡も、何も残っていなかった。
仲間に話すべきか迷ったが、笑われるのがオチだと思い、黙っていた。しかし翌朝、測量担当がつぶやいた。
「おかしいんだよな、あの辺だけ、地面が動いてる感じがするんだよ。まるで、下で何かが……ずっと息してるみたいなんだ」
あの声が言っていた。「掘っちゃだめ」と。あれは、“誰か”が、本当にそこにいた証拠だったのかもしれない。
その夜を最後に、村井はその現場を辞退した。以来、深夜の土木作業は引き受けていない。
なぜなら――またあの声に呼ばれたら、今度こそ戻ってこられない気がするからだ。