※この話はAIによる創作怪談で、全てフィクションです。
50代の現場監督・田島は、これまで数え切れないほどの建物を解体してきた。中には、事故物件や曰く付きの現場もあったが、「仕事だ」と割り切ってきた。だが、あの現場だけは今も夢に出る。
解体するのは築40年のアパート。3年前、住人の女性が室内で孤独死していた。発見が遅れ、かなりひどい状態だったという。管理会社も買い手も見つからず、ついに取り壊しが決まったのだった。
初日の作業は順調だった。だが、午後を過ぎたあたりから、作業員たちが口をつぐむようになる。重機の音が止まった隙間に、どこからか「助けて」とか「痛いよ」といった声が聞こえるという。
田島は最初、「疲れだろう」と一蹴した。だが、自分の耳にもその声が届いたとき、背筋が冷たくなった。確かに、建物の奥――かつて女性が亡くなったという部屋の方角から、小さく、か細い声が聞こえていた。
次の日、若い作業員の一人が倒れた。誰もいない部屋の中に入った瞬間、突然悲鳴を上げて意識を失ったという。彼は病院でこう言った。「部屋の中に、壁にめり込んだ顔が……じっと、こっちを見てたんです」
その夜、田島は現場に一人で残った。重機の不調を確認するためだったが、胸の奥では何か確かめたい気持ちがあった。
暗い現場。懐中電灯の光が、静まり返ったアパートの中を照らす。亡くなった女性の部屋に入ると、何とも言えない匂いが鼻を刺した。もう何もないはずの部屋の角に、古びた鏡だけが落ちていた。なぜか、誰もそこに気づいていなかったのだ。
田島が鏡に近づいたとき、鏡の中に自分以外の誰かが映っていた。髪の長い女。顔は青白く、目は真っ黒で、口を大きく開けていた。その口が、確かに動いていた。
「壊さないで……」
鏡がひとりでに倒れた。ガラスは粉々に砕け、女の姿は消えた。しかしその瞬間、建物全体が、低くうめくような音を立てた。まるで、何かが怒っているような、そんな音だった。
翌朝、田島は静かに言った。「あの部屋だけは、手をつけるな」
そのまま、取り壊しは一部を残して終了した。理由を問う者はいない。ただ今も、その場所だけは更地にならず、小さなブロック塀に囲まれて残されている。
誰も近づこうとはしない。なぜなら、夜になると――工事の音にまぎれて、あの女の声がまた、聞こえてくるからだ。