※この話はAIによる創作怪談で、全てフィクションです。
五年前に、あの村を出た。
もう二度と戻らないつもりだった。
でも、母が亡くなったと連絡が入り、私は嫌でも帰らざるを得なかった。
村の名は書かない。書いたところで、地図には載っていない。
山の奥にある、ひとつの集落。
携帯は通じず、家は今も藁葺き屋根が残ってるような場所。
久しぶりに降り立ったその空気は、やはり重かった。
あの頃、あれほど逃げ出したかった理由を、すぐに思い出した。
村の人たちの目が、笑っていない。
誰もが、何かを我慢しているような、そんな瞳。
葬儀を終えた晩、親戚筋の老婆が私に言った。
「ちょうど今夜じゃ…“藁面の宵”は」
……忘れていた。いや、忘れようとしていたのかもしれない。
それは、この村で五年に一度だけ行われる祭。
誰も“祝う”とは言わない。“果たす”とか、“終わらせる”とか、そんな言葉で濁される。
子どもの頃、私は一度だけ参加させられた。
その夜のことは、今でもはっきり覚えている。
村の広場に、藁で編まれた大きな人形が建てられる。
そして村の子どもたちは、藁で作られた仮面を顔につけて、その人形のまわりをぐるぐると回る。
回りながら、「うつせ、うつせ、わらのおもてに、まがうつる」と、謎の唄を歌う。
仮面は重く、かび臭くて、息が詰まりそうだった。
でも、何より怖かったのは、仮面を取ったとき、自分の隣に誰もいなかったことだ。
回っていたはずの友達も、兄も、誰もいなかった。
私はひとりで泣きながら家に戻った。
それが、私が村を出ようと決めた日だった。
◆
その夜。
泊まっていた実家の座敷で、ふと気配を感じて目を覚ました。
蚊帳の外に、人の形が立っている。
明かりもつけていないのに、はっきりと見える。
――それは、藁の仮面をかぶった子どもだった。
じっと、こちらを見ている。
私は息を呑んで、動けなかった。
子どもはゆっくりと指を動かした。
――来い、と言っている。
まるで夢のように、私は体を引きずるようにして、外へ出た。
村の中心、あの広場には――あの藁人形が、立っていた。
…いや、それだけじゃない。
仮面をかぶった数十人の子どもたちが、すでにそのまわりをぐるぐると回っていた。
「うつせ、うつせ、わらのおもてに、まがうつる」
あの歌が、耳に刺さる。
あのときと同じだ。でも、もっとおかしいのは……
全員、私の顔をしていた。
藁の仮面をつけてるのに、その隙間からのぞく肌、口元、目元――
どれも、私の顔だ。
ぞっとした。叫びたかった。
そのとき、藁人形の頭が、わずかにこちらを向いた。
藁で編まれていたはずのその顔は、ぐにゃりと曲がり、目と口が開いた。
「……もどってきたね」
確かに、声がした。
それは母の声にも似ていたが、もっと、何かが混じっていた。
私はその場で倒れた。
意識が、そこで途切れた。
◆
目が覚めたのは、翌日の朝。
布団の中だった。まるで何もなかったかのように。
だが、ふすまの外に置かれていたものがある。
――藁の仮面だった。
濡れていた。しかも、赤く。
もう、この村にはいられない。
そう思って家を飛び出したとき、あの老婆が笑っていた。
「よかったねぇ、引き受けてくれて」
何を引き受けたのか。誰の代わりになったのか。
いまだに、わからない。
でも、今夜も寝る前に、ふと玄関の方から声がする。
「うつせ、うつせ、わらのおもてに、まがうつる」
あの歌が……まだ、耳の奥にこびりついて離れない。