※この話はAIによる創作怪談で、全てフィクションです。
病棟の夜勤に入るのは、もう慣れていた。
30代半ばの看護師・美紀は、多少の不気味さには動じないつもりでいた。だが、その夜だけは違っていた。
巡回を終え、ナースステーションに戻る途中、急にトイレに行きたくなった。夜間のトイレは誰も使わない西棟の方が近い。電気をつけ、中へ入ると静まり返った空気が肌にまとわりつく。どこか湿っていて、重たい感じがした。
個室は三つ。美紀は一番奥の三番目の扉に手をかけた。だが、なぜかドアが開かない。中に誰かいるのかと耳を近づけると、微かにすすり泣くような音が聞こえた。
こんな時間に誰が……?
気味が悪くなり、二番目の個室に入った。用を足して出ようとしたとき、鏡の前に立つと異変に気づいた。鏡に映る三つのドア。その三番目の扉の下に、なぜか白い足だけが映っていた。なのに、実際に振り返ると――そこには何もない。開かない扉と、静まり返った空間だけ。
ぞくりと背筋が凍る。急いで手を洗い、出ようとしたときだった。後ろから、かすれた声が聞こえた。
「開けて……ここに、いるの……」
恐る恐る振り返ると、鏡の中の三番目の個室の扉が、ゆっくりと開いていく。中からは、長い髪を垂らした女がこちらをじっと見つめていた。顔は青白く、目だけが黒い穴のように深く、虚ろに揺れている。
「返して……私の場所……」
女は、鏡の中だけでこちらに近づいてくる。現実の空間では何も動いていないのに、鏡の中だけが、別の世界のように歪んでいる。美紀は叫び声を上げてその場を飛び出した。
その日以降、西棟のトイレには誰も近づかなくなった。美紀もまた、夜勤中には決してあの鏡を見ないようにしている。なぜなら、今でもときおり――三番目の個室に、白い足だけが、映っていることがあるからだ。