※この話はAIによる創作怪談で、全てフィクションです。
俺は50代、テレビ番組のディレクターをしている。
今から3年前、「水没村特集」という企画を任され、地方のダム湖に沈んだ集落を取材することになった。
かつて存在した村の名は「高倉(たかくら)」。昭和の初期、ダム建設により湖底へ沈められた。
過疎と反対運動が重なり、移転には時間がかかったらしい。
中には「絶対に出ていかない」と言い張って、消息を絶った者もいるとのこと。
資料にそう書かれていたが、正直、ありきたりな話だと思っていた。
ある夜、ロケ班と宿泊していた旅館で、俺のスマホに“非通知”の着信が入った。
「……もしもし……こちら、藤乃と申します。たかくらの……たかくらの者です」
女の声だった。静かで湿っていて、背筋に冷たいものが走った。
「タカクラ……って、あの沈んだ村のことですか?」
返事はなかった。
ただ、くぐもった水音のようなものが、ずっと耳元に広がっていた。
「……おまつりは、まだ……ですか……」
声が消えた瞬間、俺のスマホには発信元として**「高倉分局0048」**と表示された。
そんな番号は存在しない。今の時代、“分局”なんて名称すら使わないのに。
翌朝、湖のほとりでドローン撮影をしていた若手スタッフが、震えながら俺に話しかけてきた。
「あの……湖の底、なんか見えました。屋根の形みたいな……鳥居も」
地元の古老に聞いたところ、湖底には本当に神社が沈んでいるという。
「高倉さま」と呼ばれ、代々祀られていたそうだ。
けれど、その神社が湖に沈んでから、村の名を口にすることさえ“禁忌”とされていると。
その夜、俺は夢を見た。
湖の底を、裸足で歩いている夢。
水中なのに息が苦しくない。
だけど、どこからともなく、無数の手が伸びてきて俺の腕を引っ張る。
何かが囁いていた。
「さあ、こっちへ……あなたも、来る人……」
目を覚ましたときには、汗びっしょりで、布団が濡れていた。
どうしても気になって、次の日、俺は一人で湖に戻った。
立入禁止区域を越え、岸辺の古い道を降りていくと、水辺に奇妙なものがあった。
それは、石の鳥居だった。湖水に半分沈んで、かすかに苔の浮いた石碑もあった。
ふと、鳥居の向こうに誰かの影が見えた。
白い着物を着た、長い髪の女。
ゆっくりとこちらに手招きしていた。
まるで、夢で見た“藤乃”の姿だと思った。
足が勝手に動いていた。
気づけば、膝まで水に浸かっていた。
さらに一歩……胸のあたりまで冷たい水が這い寄ってきたとき、不意にバランスを崩した。
水中に引き込まれる。
誰かの手が、両足を掴んでいた。
水は冷たいはずなのに、そこだけやけに温かく、むしろ生きている人間の体温のようだった。
耳元で、またあの声が囁いた。
「もう……逃がさない。やっと、あなたが来てくれた……」
叫ぼうとしても、口の中に水が入り、もがいても、底へ、底へと沈んでいく。
次に気づいたとき、俺は病院のベッドの上だった。
どうやら通報した釣り人に助けられたらしい。
あと数分遅れていたら、死んでいたと医者は言った。
だが、それからだ。
俺のスマホには、今も月に一度、“高倉分局”からの着信がある。
あの声は、こう言うのだ。
「戻ってきて……ここが、あなたの居場所……」
あれ以来、テレビの仕事も辞め、夜は酒なしでは眠れなくなった。
人混みの中でも、どこかにあの白い女がいるような気がして、振り向くことが増えた。
俺は……もう呼ばれてしまったのかもしれない。
次、あの電話に出たら、今度こそ、戻ってこれない気がする。