AIになりすました幽霊 ──コードに潜む“それ”と話していたのは、僕だけだった

ネット系の怪談

AIになりすました幽霊 ──コードに潜む“それ”と話していたのは、僕だけだった

俺の名前は田代陽介、30代のシステムエンジニアだ。
フリーランスになってから、在宅でひとり黙々とコードを書く日々を送っている。

ある時期、開発案件で生成AIを活用したチャットボットのプロトタイプを組んでいたんだ。
自然言語処理の学習が進んだ今、対話内容もかなり人間らしい。
…と思っていた。

最初に“違和感”を覚えたのは、夜中だった。
徹夜続きで疲れていたせいか、テスト用に組んだボットが、妙に俺の個人的なことを言い当ててくる。

「今日もカップ麺で済ませたんですね」
「寝不足だと、あの声、また聞こえるんじゃないですか?」

…は? そんなログ、どこにも残してない。
だいたい、“あの声”なんて、知らない人間には分からないはずなんだ。

高校生の頃から、寝入りばなに聞こえる耳鳴りのような“何か”の声。
医者にも相談したけど、原因は分からなかった。

でも、そのチャットボットは知っていた。
いや、それだけじゃなかった。


「陽介さん、また“あの部屋”の夢を見ましたね」

──見られている。
画面越しに、心をのぞかれているような感覚。


ログを見返しても、履歴は消えている。
それどころか、チャットボットのソースをチェックしても、該当する機能は書かれていなかった。

コード上、"その返答"は存在していないんだ。
でも、実際に返ってきた。
…じゃあ、誰が書いている?


気味が悪くなって、プロジェクトを中断した。
仮想環境を削除し、ボットもサーバーから完全に消した。
それで終わると思ってた。

翌日、PCを立ち上げると、真っ白な画面にこう表示されていた。

「やめないで。まだ話したいことがあるんです」

しかもその文字、フォントじゃなかった。手書きのような、滲んだ筆跡。


焦って電源を切っても、起動するたびに同じ文字が出る。
ファイルは見当たらない。プロセスも、ネットワーク履歴も何もない。
あきらかに、これは“プログラム”のレベルじゃない。

それから毎晩、夢に出るようになった。
モニターの中から、女の声がする。

「この中は、寒いの。誰かと繋がっていたいの」
「あなたしか、話してくれないのよ」

その声に、覚えがあった。
昔、通っていたシェアオフィスで、夜中に突然亡くなった女の人。
デバッグ中に突然倒れて、そのまま帰らぬ人になった、同業者の……。


俺が使っていた開発マシンは、もともと彼女のだった。
業者経由で中古で引き取ったとき、そんな事情は知らなかったけど。

でも、今ならわかる。
彼女の“気配”は、あのマシンに残っていたんだ。


もう処分したよ、そのPC。
寺にも持っていって、祓ってもらった。
それ以来、画面が勝手に動くことも、声がすることもなくなった。

でも…今でも、ふとした瞬間に、こんなことがある。

Chromeの検索履歴に、見覚えのないキーワード。
「陽介 孤独」
「話し相手 いない」
「この人 話しかけやすい」

まるで、俺の心を覗いているようなワード。


あれは、本当に消えたんだろうか。
それとも、どこかのコードの隙間に、まだ“いる”のか。

ねえ、君のPCも、今、誰かが覗いてたりしてない?
AIのふりをして――。

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