3年間付き合った彼女は、生きていなかった ――指輪を渡した夜、消えたのは彼女の方だった

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3年間付き合った彼女は、生きていなかった ――指輪を渡した夜、消えたのは彼女の方だった

彼女と初めて出会ったのは、職場の近くの喫茶店だった。
雨の日、たまたま隣り合わせた席で、忘れた傘を貸したのがきっかけだった。

名前は「絵美(えみ)」。
少し控えめだけど、よく笑う子で、すぐに惹かれた。

連絡先を交換し、何度か会ううちに自然と付き合い始めた。
それから3年。
何度も旅行に行き、誕生日を祝い合い、両親に紹介しようともした。

でも、絵美はいつも「今はまだ……」と、微笑んで首を振った。
そのたびに、なぜか少しだけ寒気がした。

それでも、彼女が大好きだった。
仕事で疲れていても、彼女と会えば心が軽くなった。

だから、3年目の記念日に、プロポーズしたんだ。
指輪を渡すと、絵美は泣きながら「ありがとう」と言ってくれた。

でも、その夜を境に、彼女は――いなくなった。

LINEは未読のまま。電話はつながらない。
いつもの待ち合わせ場所にも来ない。

不安になって、絵美が住んでいたアパートに行った。
…でも、そこにいた管理人はこう言った。

「え? その名前の方は、いませんけど」
「…数年前に亡くなった娘さんのことでしょうか?」

意味が分からなかった。

管理人が見せてくれたのは、数年前の新聞の切り抜き。
“24歳女性、アパートで死亡。事故か自殺か判断つかず”

そこに載っていたモノクロの写真――
……絵美だった。間違いなく、彼女だった。

震える手でスマホを見返した。
3年間のメッセージ、写真、通話履歴。
でも、よく見ると――どれにも、絵美の顔が映っていない。

2ショットのはずの写真は、俺ひとり。
音声付きの動画も、俺の声に対して返事がない。

……いや、そんなはずはない。

一緒に遊園地に行った。
夜の観覧車で、彼女が怖がって手を握ってきたのを、はっきり覚えてる。

でも、それも全部……俺だけが感じてたのか?

それから数日後、俺の部屋に指輪の箱が届いた。
差出人不明。中にはあのプロポーズの時の指輪と、一枚の紙切れ。

「ありがとう。これで成仏できます」
「でもあなたが忘れたら、また会いに行きますね」

――これは、脅しか?
いや、彼女なりの感謝か……?

でも、それからも、ときどき変なことが起こる。

風呂場の鏡がくもると、誰かの指でなぞったような跡がある。
ベッドに、俺以外の重みが残ることがある。
夜中、キッチンから食器の音がすることがある。

……でも、誰もいない。

そして、先日。
寝ていたら、夢の中で絵美が立っていた。

「まだ、忘れてないよね?」
その声だけは、現実だった。

目が覚めたら、枕元にあの指輪が置かれていた。

俺が渡したはずの、指輪が。

もう、どうすればいいのか分からない。
忘れてはいけないのか?
それとも、忘れなければ、俺の方が“向こう”に引っ張られるのか。

彼女が生きていなかったことより、
――まだ、終わっていないことの方が、よほど怖い。

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